一生夏季休暇

読んだ本の感想(ネタバレしかない)、海外サッカー追っかけ、雑記。

【感想】十二国記『華胥の幽夢』| 潭翠になって泰麒を陰から見守りたい。やんちゃされて困りたい。

5冊振りの生泰麒!

東の海神、風の万里上下、丕緒の鳥、図南の翼を経て!お久しぶりです泰台輔!

そんなウキウキ気分で読み進める本短編集ですが、中盤以降でね、、やられますよ心が、、

ええ、4編目の華胥ですけどね。すっごい胸の中抉ってくるというか、、耳に痛すぎて足早に帰山読み進めました 笑

同じく短編集である丕緒の鳥は、どちらかというとモブの話(言い方)というか、メインストーリーの存在を仄かに感じるお話でした。

ですが本作は、がっつりメイン!!泰麒も陽子も楽俊も尚隆も利広も出るし、その他作品での登場人物もたくさん出てきますですね!

では、今回も1編ずつネタバレしかない感想を。

 

①冬栄

風の海〜後の話。泰麒は泰王に命じられて漣国へ。このところ驍宗は忙しそうで、かたや自分は幼すぎて何もできない。そんな苦悩を抱えた泰麒が、温和でちょっと抜けてる廉王との関わりで、自分の役目が何であるかを気付かされる...

風の海では台輔になった後はそこまで書かれていなかったので、じいやの正頼とか、護衛の潭翠とか、周りの面子との掛け合いが初めて見られました。

潭翠はあまり感情出さずにじっと護衛している様子ですが、正頼のじいや感!!泰麒のこと可愛くてしょうがないだろうなあ...
現に、台輔はおねだりが上手だから〜みたいなことを言ってましたね。

あのね、正頼... なんて言われちゃったらもう!!

そして初登場の漣。凍てつく厳しい寒さの戴とは対称に位置する漣は、冬でもお花が咲く温暖な国。客人が来てものんびりマイペースな廉王。沖縄のウチナータイムみたいな感じでしょうか。(官吏はマイペースに振り回されて大変そう...)

そんな王っぽくない?廉王から、お役目についてヒントを得る泰麒。王を見守ることも立派なお役目ですよ。

充足感あふれる足取りで戴へと帰った泰麒にサプライズ!!王のお近くに住まわせてもらえることに!!泰麒の嬉しさ丸出しきゃっきゃ感が可愛いですわね!!

そして驍宗さまも言うのです。自分だけだと一人で突っ走ってしまうから、あれは何これは何と泰麒が話しかけてくれることが抑止力になるんだよと。

これでもう寂しい思いをしなくて済むね泰麒!と言いたいところですが、おそらく次巻でそんな平和なこと言ってらんない状態になるんですよね、噂で見たくらいですが。。

個人的に、蒿里って驍宗だけが呼ぶのが好きなので、私も泰麒を字で呼ぶのは控えさせていただいてます(勝手にせい)

 

②乗月

祥瓊の故郷、芳のお話。民を苦しめ続ける峯王を討った月渓。普通は王を討った主導者が仮朝を建てて王座に座るのだが、月渓は恵州候の位を捨てずに州へ戻ろうとしている。月渓以外に王座が務まる人などいないのに...

風の万里では祥瓊の親を討った挙句に彼女を追放したり、悪役イメージしかなかった月渓さん。このお話を読んで印象ががらっと変わりました。

何も峯王憎しで討った訳ではなく、自ら王の道を外していく王の姿を断ち切りたくて討ったよう。尊敬の念があったからこそ、堕ちていく姿を見るのは辛かったのでしょう。月渓自身が国を建て直したいとか、峯王の後釜に着くとか、そんなことは全く考えていなかった。王を討つという大逆を犯した自分が、王座に着いていいはずがない、と。

え、月渓めちゃくちゃ良い人じゃないですか。大逆はたらく人って、俺が王を討って王になってやる!みたいな野心家なイメージですが。

月渓は色々考えて、考え抜いた末に、本当に最後の選択肢として王を討つことを選んだような。

月渓なら良い王になれると思うよ。って、側近の者もちゃんと分かっているよね。

と、月渓の話が長くなりましたが、今回のお話では月渓を訪ねて慶の使いがやってくるんですよね。青辛って誰やねんと思ってましたが、熊さん将軍の桓魋でしたか。人の良い感じが溢れてますよね。月渓の気持ちもうまく汲み取りつつ。

桓魋が陽子のことを、主上は良い人ですよって言ってたのが良い!!有能とか優しいとかそういう言葉でなく、良い人って表現がいいですね。(まあ本当に有能とか言うにはまだ経験が足りないんだろうけど)

さらにもう一国、恭も話の中で登場しますね。祥瓊が恭の王宮で宝物を盗んでしまったことに対して、減刑を求める書状を月渓も陽子も出していたんですね。

それで供王珠晶は、

一人の小娘のために時間なんて割いてないで、芳も慶も自分の国を再興するのに専念しなさいよ!減刑なんてしないわよ!一生国外追放よ!恭に来たりしたら追い返すんだからね!と。

(つまり謝罪に来る必要もなし。慶で好きにやってればいいわよと)

ええ...珠晶さん...男前...

 

③書簡

月の影後、風の万里前の時系列でしょうか。慶で王やってる陽子と、雁で大学生やってる楽俊の文通。つっても鳥だけど。

乗月では良い感じに王になれてる陽子が描かれていましたけど、書簡での陽子はそれより前。国のことも政治のことも分からなくて、官吏にも景麒にも呆れられて...って悩んでいる時ですよね。

楽俊には気丈に振る舞っている陽子がなんだか切なかったです。まあ嘘は言ってないんですけどね。

楽俊も充実した学生生活を送っているのは事実だけど、悩みのタネもあるでしょう。現に半獣だからといって差別されたり、将来を不安に思ったり。でも巧にいた時よりは本当に恵まれていると彼は言うんですよね。。

大学にお友達もいるようだし、たまに延王延麒がお忍びで遊びに来たりしてるみたい(笑) それめっちゃ楽しそうじゃん...その様子をば...ぜひに...

④華胥

表題作。麒麟が失道に陥った才国。理想を追い求めて官吏とともに突き進んできたはずなのに、どうして国は傾くのか。そして王の父が何者かに殺されて、弟も行方不明に...

一番長いお話でした。そしてずっしりと心に響いてくるような重さ。

 

「責難は成事にあらず」

 

人を責め、非難することは何かを成すことではない。口で非難するのは簡単だよ、じゃあお前がやってみろよってことですね。

こればかりは現実世界と重ねて考えてしまいますよね、、思い当たる節がありすぎる。

仕事であの人はどうとか会社の体制がどうとか文句は言えるけど、じゃあお前だったらどうする?と言われたところで、答えに詰まるか机上の空論を並べるかだし。

イムリーな話だと、サッカーワールドカップPK戦に負けた日本を非難する声とかには若干思うところはありましたよね。じゃあお前がやってみろよと。

でもこれは決して非難することが悪いことという訳ではなく、非難するならそれなりの覚悟や考えを持ちなさいよということかなと。

結局采王は亡くなってしまう訳ですが、最後に王の叔母(ですよね?)にあたる慎思の字が明らかになります。黄姑(こうこ)。

なんか既視感がある...ような...?

風の万里をめくってみて発見、鈴が梨耀から逃げて采王に助けを求めた場面。黄姑は采王の字でございました。

ということは、この華胥のお話の後、慎思が王に選ばれたのですね!采麟ちゃんも大丈夫かな〜と思っていましたが、ちゃんと次の王が見つかってよかったね。

 

⑤帰山

国が傾いていると噂の柳。視察に訪れた利広は、30年振りに風漢(尚隆)とばったり出会う。お互いの素性は敢えて口には出さないけれど。奏と雁、600年と500年という寿命の長い国だからの不安や苦悩、国を長く治めることの難しさなど...一国を担う二人だからできる政トーク

柳が危ういことは風の万里でも言及されていたし、丕緒の鳥の短編の一つに柳が舞台の話がありましたね。尚隆が劉王はすでに王権を放棄してるんじゃないかと指摘していましたが、まさにその通り。死刑の可否で苦悩する官吏をよそに、判断を全て投げ出していましたからね。

王朝の存続について、いくつか節目があると言う話。第一の節目で10年、第二の節目が30〜50年。第三の節目はなぜか分からないが300年(利広調べ)。300年の節目で倒壊する王朝は悲惨な倒れ方をするそうですが、、どうなんでしょう。終わりが見えないということは、かなりストレスにもなり得るのではと思いました。

我々は仕事には定年があるし人生には寿命があるし、それが近かろうが遠かろうが必ず終わりがあることは確実ですよね。でもそれが無いとなると、なんかどう生きればいいか分からなくなりそうな気がします。

風の万里でしたっけ?何もやることがなくなるほど平和になったら、国を滅ぼしてみたくなるかも、みたいなことを尚隆も言ってましたよね。

しかも実際300年の節目の頃、碁を打って稀に勝った時に碁石を一つ掠め取って集めていたと。83まで数えたけど、アホらしくなってやめたと。

その前に利広が、延王なら博奕を打って唐突に国を滅ぼすだろうと言うんですよね。例えば、滅多に会わない相手に100回会うことを賭けて。これを踏まえて尚隆が碁の話をしてきたということは、、100個碁石集めたら国滅ぼしていたのかい?!

(この話は200年前だと尚隆は言っているので、計算すると治世300年で第三の節目だったと!他の人の考察で知りました!)

でも本当に、いつ魔が刺して国を滅亡に追い込むか分からないのが怖いですよね。だって滅びなければ永遠に王朝続くんですから。悪政とかで傾きそうにない両国だからこそ、逆に怖い...
二人とも笑顔で国滅ぼしそうだもん...サイコパス...

と、いうわけで全5編を気の向くままに心の声を書きました。実際はこれ早く描き終えて続き読みたいーー!!の一心でした(笑)

私個人的には、陽子の周囲からの評価が上がっていて嬉しい限りです。利広も褒めてくれていたね。

それでは、締めの言葉が思い浮かびませんが、次巻が気になるのでこの辺りで。本作もとっても楽しませていただきました!!